そうや京都、帰ろう! - 山龍の京都今昔物語

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着物マスター山龍が案内する「生きた京都の街模様」

  • TEXT/小野緑
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其の35.たわしが語る職人の街

「面白い店連れてったるな」

山龍が観光客の行き来する三条大橋の西側のたもとで車を停めた。目の前にスタバ。コーヒーでも買ってから向かうのか?

「ここやねん」

指さしたのは、スタバの2軒手前の地味〜な店だった。全体的に茶色い空気の漂う店先を見ると……なんと、たわしやほうきがぎっしりと、しかも整然と並んでいる。東京では、こういった類のものは金物屋に売っているが、ここは正真正銘の"たわし専門店"のようだ。店の上やら横やらを探したが、看板らしきものはどこにも見当たらない。

三条大橋の真ん前という、正に京都の華やかな中心地にある名もなきたわし屋。今まで何度も京都を訪れ、その度にこの三条大橋のあたりは必ずと言っていいほど通っていたのに、こんな店の存在にはまったく気づかなかった。

「このたわし屋は、ホンマに僕のガキの頃からあんねん。どうしてこんな店があるのかまったくわからへんかった。ほうきが¥5,000とか、たわしが¥1,500とかするんやで。あり得へんやろ?」

いかにも京都的な雅なお土産物屋や食べ物屋が並ぶ場所に、日常雑貨、それもたわしの専門店とはどういうこっちゃ!? 開け放たれた店先には、大きさや形の違ったたわし、刷毛、ほうきが各種並んでいて、紙に手書きの値札には、たわしは¥300〜¥1,700と、立派な金額が書かれている。

「この店は、雑誌のブルータスのインテリア特集で、コンランショップのテレンス・コンラン卿が立ち寄り、ここのたわしの機能美に惚れ込んだいう話やで。今でもロンドンのコンランショップにこの店のたわしが置いてある」

薄暗い店内に吊されたほうき各種が、胸を張って我々を見返している気がした。この店、ただものではない。

店の名前は『内藤利喜松商店』(看板は出てないけど)。創業は江戸時代、文政元年(1818年)と200年近く続いている店なのだ。竹ぼうきや椰子でつくったたわしもあるが、ここの専門は棕櫚(シュロ)でつくったたわしとほうき。棕櫚は、庭などにある椰子科の木で、幹が茶色い網のような繊維質で覆われている。私の実家の庭にもあったあった! この繊維質の部分が、ほうきやたわしの材料になるらしい。棕櫚の繊維は弾力性や耐水性に富み、実用性は抜群なのだとか。亀の子たわしだけでなく、束ねてくくった切藁型(きりわらがた)のものも大小様々あり、鍋やフライパンを洗うのには最高の使い心地だという。

『内藤利喜松商店』

三条大橋のたもとにある棕櫚のたわし&ほうき専門店『内藤利喜松商店』。
一見倉庫みたいな店内は、きっと江戸時代から変わらないのでしょう。
街のど真ん中にこんな店が残っているのが京都のスゴイところです。必見!

ほうきも、棕櫚ほうきは使い込むほどに柔らかく、なおかつ腰が出てくるという優れものだそうだ。また、樹脂があるので、フローリングの床を棕櫚ぼうきで掃くと、傷つくことがない上に艶が出るのだそうだ。

これらの情報は、東京に帰ってきてから調べたので、実際に行った時は、あまりの異空間に圧倒され、ほうきもたわしも買ってこなかったわたし。今でも悔やまれる。

「京都は、刷毛屋とかほうき屋とかそういう専門店があるんよ。西本願寺前には仏具屋のほかに、数珠屋とかろうそく屋もある。どれも本来は業務用や。刷毛は、金箔を貼った後、シャ〜っと払うためとか、障子貼りとか。たわしも、友禅の白生地洗うのに使ったり。そういう職人がいたから生き残った店なんちゃうかな思う」

『内藤利喜松商店』

柔らかさと腰が自慢の棕櫚製のたわしと切藁型のささら各種。
昔は職人が店の裏に住んでつくっていたが、今はのれん分けした地方の職人に頼んでいるそうです。
材料の棕櫚は昔は国産だったが、今では中国からの輸入。

たまたま今回は、京都で唯一の箸専門店『市原平兵衛商店』にも寄ってみた。四条烏丸から細い裏道に入ったところにある店は、小さいながら『いちはら』の看板があり、ぎっしりと箸が並ぶ。店の奥では、8代目の店主が真剣に箸を削っていた。

『市原平兵衛商店』

京都で唯一の箸専門店『市原平兵衛商店』。
人通りの少ない路地にひっそりとある店ですが、8代目の店主が箸を削る姿が見られます。

こちらも、江戸時代、明和元年(1764年)から続く店で、京都の料亭や宮廷御用達のお箸専門店として240年も続いているという。先代が考案した、すす竹を使った「みやこばし」がオススメらしいが、私は六角箸が気に入って、3膳購入してきた。さっそく家で使っているが、持ちやすい上に、先が丁寧に細く削られていて、とても使いやすい。

「ここの箸はうちでも使ってたで。よく考えると、家にあるものは、どれも店主の顔の見えるもんばっかりやった。だから修理もしてくれる。そのへんの感覚は東京とはちゃうやろな。せやからものを大切にするいうことはないんやけど、粗末にしたら、あっこのおっさん文句言いよるやろないうのはあったな(笑)。あと、例えば仏壇なんかは、年末にばらして掃除するんやで。日常、仏壇を組み立てとんのを見てるやん。だから、どこの家でも当たり前にやる」

『市原平兵衛商店』

先代が考案したすす竹製の「みやこばし」は、会席料理屋などで人気があるとか。
漆塗りの六角箸を買ってみましたが、使いやすくて丈夫。どんどん愛着が沸きます。

京都は、身近にものづくりが、つくる人の顔が見える街なのだ。そして、職人が使う、機能美に満ちたプロユースのものが街中に溢れている。そんな街で育ったら、ものを見る目も当然身につくだろうなあ。

「そりゃあ、他府県の人よりは見る目は育つ土壌はある。だからって、京都人がみんな見る目があるか言うたら、そういうこともないんやけど。PL学園行ってるから言うて、みんなが清原みたいになるか言うたらちゃうしな(笑)」

アハハハ、ごもっとも! しかし、それでも子供の頃からそういう職人技を見て育った山龍を、少し羨ましく思う。

「そやな。ガキの頃から見てるいうのは大きな遺産や。僕かて、見てたからこういう仕事ができたし。職人の技いうのは、見なきゃわからんのよ。その代わり、見てわからんヤツにはできん。これはどの業種の職人かて一緒やで。ホンマに小手先の小さなコツがあって、職人技いうのはそういう些細なものの積み重ねなんよ。だから腕のいい職人は絶対に自分の仕事は見せへんし、素人がちょっと見たかて絶対にわからん」

だからこそ、自分もやってみたい、そういう道に進みたいと思う人が育つ……東京にはあまり生まれない価値観が、京都には今も生き残っているのだ。

「ホンマに職人て、生き方も不器用で酒飲んで博打してアホばっかりやけど、それでもひとつのことを積み上げていったら、あれだけのものができるいうのは凄いよな」

常日頃職人達と一緒にものづくりをしている山龍の、職人達に向ける眼差しは厳しくも温かい。

「京都人ってバカなんよ。京大進学率も地元のくせに低いしな。でも、バカでも食うていける方法をガキの頃から見てる。大学は賢いヤツが行けばエエ。俺にはこっちの道がある……そんな風に思える環境は、悪くない思うで」

『内藤利喜松商店』
京都市中京区三条大橋西詰北側
TEL:075-221-3018
営業期間:9:00〜19:00(無休)
http://www.joho-kyoto.or.jp/~sankoba/omiseyasan/naito/naito.html
http://shikki.blog66.fc2.com/blog-entry-352.html

『市原平兵衛商店』
TEL:075-341-3831
営業時間:10:00~18:30(日・祝11:00~18:00)
定休日:日曜日(不定休)
http://kyoto.wakasa.jp/detail/25/265/