コラム「指南」 - 山龍に学ぶ花咲ける着物道コラム

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着物マスター山龍の「目からウロコの和-ism指南」

  • TEXT/小野緑
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第20回 帯を制する者、着物を制す

誰も知らない帯の柄付け

最近、やたらと新しい帯が欲しくてしょうがない。
私は、着物入門のときから山龍師匠の教えに素直に従ってきたので、質から色合いから、完璧に間違いのない着物を持っている。どこに出ても受けがいい。帯だって、そんじょそこらには見当たらないシロモノ。何度となくお褒めの言葉を頂戴した。

しかし、エルメスのスカーフを買うと、立て続けに違う柄が欲しくなるのと一緒で、いいものは、またすぐに欲しくなる。コーディネイトがうまくいけばいくほど、変化が欲しくなるのだ。物欲、恐るべし! である。

私が最初に選んでもらった帯は、この連載コラムの第2回でお披露目したように、お太古(本などには「お太鼓」とありますが、正式には「お太古」が正しい)の部分にギャオス(鳳凰の柄を山龍はこう呼ぶ)が出るように締める、柄出しにちょいとテクニックを要するものである。だから次は、全体にゴージャスに柄の入った、どこ締めてもOK、みたいな帯がいいかなあ……と、山龍に相談したら、いきなり怒鳴られた。

「何言うてんねん! あんたの帯は、8つの図案が入っとる、手の込んだ帯なんやで。紋紙(図案のパターン)が8ついるから、8本分のコストがかかっとる、あり得へん帯なんやで」

そう言えば、締めてしまえば、お太古とたれと、腹紋(お腹の部分に出る柄)と手先しか見えないのに、隠れる部分にもいっぱい柄が入ってるな〜とは思っていたが、そんな手の込んだものだったとは!

店先に飾ってあると、いかにも豪華に見える全通の帯(全体にまんべんなく柄が入った帯)は、同じ紋紙の繰り返しなので、実はコストがあまりかかっていないのだそうだ。

「この帯は、全体に柄が入っているから豪華で高級なんですよ〜〜」
という、呉服屋さんの猫なで声は、真っ赤なウソ。気を付けましょう。

「8か所に柄が入っているのが正式な帯の柄付けやっちゅうことは、誰も知らへんな。西陣の織屋でも、知ってるとこは、ボクとこ入れて3〜4軒」

帯は約4m40cmと長いので、二つ折りにしました。下(左側)から、「たれ紋」「合い紋」「裏太古」「太古」。太古の鳳凰(通称ギャオス)以外は、花の柄です。

帯は約4m40cmと長いので、二つ折りにしました。下(左側)から、「たれ紋」「合い紋」「裏太古」「太古」。太古の鳳凰(通称ギャオス)以外は、花の柄です。

「太古」の次にくるのが「腹紋」、その後の無地の長い部分が、身体に巻き付ける部分です。そしていちばん上(右側)に「果て紋」。どちらも、左右どちら巻きに締めてもいいように、柄が上下で逆さに入っています。

「太古」の次にくるのが「腹紋」、その後の無地の長い部分が、身体に巻き付ける部分です。そしていちばん上(右側)に「果て紋」。どちらも、左右どちら巻きに締めてもいいように、柄が上下で逆さに入っています。

せっかくだから、帯の正式な柄付けを聞いておこう。
帯をズズ〜っと延ばして、まずいちばん端にあるのが「たれ紋」。これは読んで字のごとく、お太古を締めたときに、たれとしてお尻のところに出る部分だ。次にあるのが「合い紋」。これは、帯を締めると全く隠れてしまう柄だが、帯を2つに折って吊ったときに、ここに柄があったほうが美しいから……という理由で入れられた、非常に贅沢な柄である。

次が「裏太古(うらだいこ)」と言って、二重太鼓を締めたときに、太古の裏側にちゃんと見えるように、わざわざ柄をひっくり返して折り込んである、これまた贅沢なもの。そして、いちばんの花形の「太古」の柄がやっとくる。

「太古」の柄の次が「腹紋」。締めたときにお腹の部分に出る柄である。それからぐるぐるとお腹に巻く無地の部分が続き、最後のてさきの部分にくるのが「果て紋」。私の帯の場合は、「腹紋」と「果て紋」が、同じ柄を逆向きで折り込んである。帯を左右どちら巻きにしても、柄が出るようにだ。もちろん、ここにそれぞれ違う柄が入った帯もある。

「ただ、こんな帯探したら、高いもんばっかりになってしまうさかいに、オススメは「太古柄」言うて、太古と腹紋が入った帯やな」

山龍に言わせれば、腹紋以外、脇腹の部分が無地の帯が、締めたときに着姿がかっこよく見えるのだそうだ。

「全体に柄が入っている帯は、一見豪華やけど、締めたときに太って見えるで。締めたときにかっこよく見える帯が、エエ帯や」

背中の柄に守られて……

そもそも「二重太古」や「一重太古」という太古を作る帯の締め方は、江戸時代の中期に花街の太夫さんが「前太古」というのをお腹のところで締めたのが始まりだそうだ。当時の太夫さんと言えば、ファッションリーダー的存在。

「みんな真似してお太古を締めるようになったんやけど、普通の人が前で帯を締めたら生活できへんから、背中に回しただけ」

そして、太古をかっこよく作るための帯枕ができ、それを隠す帯揚げができ、畳んだ帯を締める帯締めが道具として必要となったというわけ。

また、本来帯の柄付けに意味があるように、帯の柄そのものにも意味があるという。

「腹紋いう、帯を締めたときに腹の部分にくる柄は、相手に対する敬意を表す柄。背中の太古の柄は、自分自身を守る意味の柄なんよ。だから、腹紋とお太古の柄が同じいうのはおかしいねん」

な〜るほど! 私の場合は、花で相手に敬意を表し、鳳凰すなわちギャオスに守られているというわけか。極道の姉さんが、背中に唐獅子牡丹を彫るみたいな気分……とは違うと思うけど、ちょっと心強い気がしてきた。

ついでに言うと、腹の部分に見える帯の長方形は、神事に於ける祝儀袋に例えて、祝儀袋に書かれた「寿」の文字に当たるのが腹紋、水引にあたるのが帯締めなのだとか。「寿」の思いが外に出ないように水引が結んであるように、腹紋の柄の意味が外に出ないように、組紐を結ぶというわけだ。祝儀袋の「寿」の文字は袋のど真ん中にはないから、腹紋も中心から外して締めるのが正しく、しかもカッコイイと山龍は言う。

「ま、かっこよければそんなことどうでもエエんやけど、そういう意味ぐらい知ってたほうがエエんちゃうかなと」

ちなみに、最近の帯のメーカーのほとんどに知識がないから、そういう理にかなった帯は、今では少ないそうだ。確かにファッションとして考えた場合、相手への敬意だとか、自分を守るだとか、水引だとかはどうでもいいことだと思う。しかし、柄にそういう意味を持たせた日本の文化や思想は、着物を装う時の心の豊かさにつながるような気がする。知っていると、背筋がしゃんと伸びてくるような……。いずれにせよ、着物にも増して、帯の需要制を再認識させられた。

「帯の幅もな、普通は8寸(約30cm)やから、腹の部分は半分の4寸。これはだいたい155cmの身長の人にあったバランスなんよ。でも、今はみんな背が高くなったやろ。165cmの人やったら、この幅やと、伊達締めみたいに見えて格好悪い」

その場合は、真っ二つに折るのではなく、6:4、身長170cmだったら、7:3ぐらいに折って、幅の広いほうを表に出せばいいそうだ。

お座敷衣裳だった昔と違い、今の着物は立ち姿で見せる。ゆえに着物とのバランスの問題というわけだ。

ちなみに私は、155cmという古風な身の丈なので、何の問題もない。嬉しいような、悲しいような……。せっかくいいい話聞いたのに、背中のギャオスが泣いてるぜ!

(2008.5.14)