コラム「指南」 - 山龍に学ぶ花咲ける着物道コラム

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着物マスター山龍の「目からウロコの和-ism指南」

  • TEXT/小野緑
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第17回 召しませ花を

世界中が花の祭典

2008年春夏のコレクションは、パリから始まりミラノ、ニューヨーク、とにかく花柄プリントのオンパレードだった。マダムブランドから一躍返り咲いたバレンシアガを筆頭に、ラルフ・ローレン、D&Gまでも、花! 花! 花! 花柄というのは世界中に共通する、心ときめくデザインパターンなんだなあと、改めて思う。

染織の歴史を辿ってみても、織物の柄には花を始めとした植物が多い。それは、宗教的な意味合いが強く、キリスト教でも仏教でもユダヤ教でも、その法典や聖書の中に、草木に精霊が宿るということがしたためられているところから来ているらしい。また、昔は製糸の技術がなかったので、糸自体の質が今より遥かに悪く、ブツブツと節目だらけだったため、織られた生地自体は汚かったそうだ。それを誤魔化すために、草花の模様を入れたというのが始まりなのではないかと山龍は言う。

日本の着物の柄も、その大半は草花の柄だ。

「今の着物は、江戸末期から出来上がったものなんやけど、旧歴の24節季(コラム第9回参照)に則って、季節感を日常に取り入れて暮らすという日本人独特のライフスタイルからそうなったんよ」

洋服でも花柄というのはカジュアル感があるが、着物も同じ。やはり花柄=カジュアルな着物なのだそうだ。フォーマルな着物の柄はというと、菱の紋や格天井(ごうてんじょう)の紋のように角張った、山龍言うところの「エッジの効いた」柄が大半。花のように丸いフォルムはカジュアル、角張ったものがフォーマルというのが日本の伝統的な考え方なのだそうだ。

そこで、昔の人はフォーマルな着物の柄には、道具紋と言って、重箱や扇面の柄の中に花や草を描き、季節感を表現した。

「そういう美意識は、日本人独特で、非常に優れた感性や思うよ」

しかし、かく言う山龍は、着物に花柄を使わない派である。
理由は3つ。

1)柄で季節を限定せずに、自由に着物を選んで着て欲しいから。
2)作り手はその中に意志を込めて作品を作る。花には花言葉や占いのような意味合いがあるので、意志が限定されてしまうから。
3)花柄の着物は、素人には帯とのコーディネイトが難しいから。

「洋服の花柄はええ思うよ。フレアスカートやったらOK! ミニスカートもOK!(笑)」

あ、そんな好みは聞いてませんから!

花柄のコーディネイトは難しい

この春、山龍はセレクトショップの着物コーナー用に、花柄の着物のコーディネイトを提案した。作り手という立場では受け入れがたい花柄も、ファッションとしての着物をアピールする上では「花もあり」という考えからだ。

私が山龍に出会う前にイメージしていた着物はというと、ピンクや黄色地に桜や菊や梅、はたまた水仙、藤などが豪華に描かれた、まさしく花柄の王道である。それ故に着物には見向きもしなかった。

彼と出会って、
「着物やからピンクや黄色とか、着物やから花柄というのがおかしいんよ」
という目からウロコの言葉を聞き、織物、ファブリックという角度からの着物の魅力を教えてもらい、今では昔から着ていたような顔で着物ライフを楽しんでいる。だから、山龍が敢えて選ぶ花柄の着物には、人一倍興味があった。

「こんなんだったら、着れるんちゃう?」

彼の選んだ花柄の着物は、花絣を中心とした織物である。はたして、山龍はどんな視点でこれらの花柄の着物をセレクトしたのだろうか?

「とにかく柄がバランス良く入っていること。僕は、写実的な花じゃなくて、花の形や色をした紋という花の扱いを頭に描いて、柄を選んだの。せやから、季節もあんまり関係あらへんよ」

花絣の着物に、同系色の結城紬(ゆうきつむぎ)の八寸帯(はっすんおび)を合わせた、山龍のコーディネイト。淡い花柄を、格子柄の帯で引き締めているところに、コーディネイトの技を感じます。

花絣の着物に、同系色の結城紬(ゆうきつむぎ)の八寸帯(はっすんおび)を合わせた、山龍のコーディネイト。淡い花柄を、格子柄の帯で引き締めているところに、コーディネイトの技を感じます。

当然だが、私がかつてこれぞ着物と思っていたような、裾を中心に草花が日本画のように描かれたものは一つもない。

「友禅紋は昔、帝展(今の日展)の画家が着物に絵を描いたりしていたところから来てるから、着るゆう感覚やのうて、キャンバスやねん。僕は着て素敵な着物しか選ばへん」

問題は、帯の選び方だ。
洋服の場合だと、ブラウスが花柄だったら、スカートは無地。間違っても花柄のブラウスに違う花柄のスカートを合わせ、これまた花柄のカーディガンを羽織るようなとんでもないコーディネイトをするお馬鹿はいない。それが、うじゃうじゃいるんですよ、着物の世界には。

「ゴージャスな花柄の着物には、よりゴージャスな花柄の帯で……なんて大間違い。センス悪いで! 無地っぽい着物に花柄の帯でワンポイントの方がずっとセンスええよ。とにかく、難しいんよ、花柄のコーディネイトは」

結局は、プロにコーディネイトしてもらうのがいちばんなのだが、失敗しないコツは、花の着物には同系色か、白系か黒系の帯! なのだそうだ。つまり、帯も同じ色合いで合わせるか、白で抜くか、黒で沈めるか……ということ。中間色より薄い花柄の場合は白で抜き、濃い花柄の場合は黒で沈めるのが鉄則だと言う。

「このコーディネイトがバシッとキマると、周りの空気が変わるほどの華やかさが出るねん。それが、花柄が持つエネルギーやろな」

思い切ってこの春は、花柄にチャレンジしてみますか。

ところで、山龍師匠はどんな花がお好きなのでしょう?

「好きな花?……あらへんな。一面の菜の花とか、川面に浮かんだ桜の花びらとか、紅葉の絨毯は好きやけど、一輪でこの花が好き、というのは……無い。 あ! なすびの花とかは好きやで。食うもんに咲く花は好き(笑)」

咲いた後で実になる花ってことですか……?

「そ! 食える系!」

う〜ん、聞くんじゃなかった……。

(2008.2.14)