コラム「指南」 - 山龍に学ぶ花咲ける着物道コラム

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着物マスター山龍の「目からウロコの和-ism指南」

  • TEXT/小野緑
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第10回 頑張れ、浴衣!

浴衣業界大健闘!

浴衣が大変な人気である。

6月発売の女性誌では、キャピキャピのティーン誌から、イケイケのグリッター系ファッション誌に至るまで、浴衣の大特集のオンパレードだった。定番の紺白の柄から、ピンク、イエロー、蝶よ花よと大にぎわいの百花繚乱! 浴衣はすっかり夏のファッションItemの座を不動のものにしたようだ。

浴衣の総売上がピークだったのは、1999年だったそうである。それ以降は、ユニクロを筆頭に、アパレルメーカーがこぞってリーズナブルな浴衣を発売したため、売り上げ額は下がってきているものの、売れている枚数自体は、確実に増えているという。呉服屋が軒並みつぶれ、低迷している着物業界を尻目に、簡単に着られて安い浴衣は大健闘しているのだ。

「こうやっていろんな種類の雑誌に取り上げられているのはエエ思うよ」

そもそも、「浴衣は寝間着や! 着物やあらへん!」「浴衣の生地は、小さく切ったら手ぬぐいやで」……などと言っていた山龍であるが、全く着物に興味のなかったティーンが、浴衣から和装の世界に馴染んでいくことに関しては、大いに肯定的だ。

だいたい、着物はよく“値段が高い”“着ていくところがない”“自分で着れない”と言われるが、浴衣は安い上に簡単に着ることができるし、お祭りや花火大会など、着ていく場所やイベントが明確にある。花火大会でみんなが着てたから私も! と思えば、ネットで下駄、巾着までセットになったものが1万円代で買えてしまう。

「これだけ浴衣の業界が成熟したのは、アパレル業界という異業種が参入したからなんよ。着物の業界が未成熟で腐ってるのは、着物の業界だけでやってるから」

きっつ〜いひと言だが、まさにその通り! 着物の仕立ては呉服専門の業者に頼まなければできないが、浴衣はベトナム縫製工場が広く門戸を開いているため、着物を知らないアパレル業界でも、簡単に作ることができるという仕組みこそが、明暗を分けている原因の一つなのである。

「こうやっていろんな雑誌が取り上げてくれるように、着物もせなアカンな」

そこまで言うのなら、山龍も浴衣を作ればいいのに……。

コスプレから大人の女へ

山龍が浴衣を作らないのには、いくつかの理由があった。

一つは、中に長襦袢を着ないので、襟元に半襟の白が入らないこと。彼の着物作り、着物のコーディネイトは、襟元と足もとに白が入ることを前提に、その世界観を構築している。半襟だって足袋だって、色物柄物は邪道! と声を大にして言い切る。それ故、襟元にいきなり浴衣の柄が来るということに、非常な違和感があるのだそうだ。そしてもう一つは、染料の問題。

「浴衣は素材が綿や麻やろ? 絹とは染料の材料が違うの」

つまりは、異業種ということか。

「そう! 別に染料なんて高いもんやないから買えばいいんやけど、思い通りの色が出るまで、いろいろ試行錯誤が必要。やってみんとわからへんから嫌やったんよ」

でも、これだけ市民権を得ているのだし、ほとんどの人が、浴衣は着物の普段着バージョンだと思っているのだったら、やってみるのも悪くないでしょう?

「そやな。30代以上の女性が素敵に見える浴衣、作ってみよか?」

ということで、ついに山龍が始動!

思えば、今の浴衣ブームの中心は、10代から20代前半の女の子である。30代になると、昔から少しも変わらない定番の(山龍いわく、手ぬぐいみたいな)浴衣柄、40代になると、町内会の揃いの浴衣(下手すりゃうちわも持たされる)……と、年が上になるほどランクが下がり、素敵なものが見当たらない。

この、上のランクのものがないのが浴衣のつまらなさだと山龍は言う。着物が、歴史的に貴族や武士の階級服から始まっているのに対して、浴衣は庶民の普段着だったために、ボトムゾーンばかりが拡がったのだろう。しかしそれが今では、ファッションとしてここまで体系立てられ、成熟してきているのだから、やはりファッションにこだわりを持った、大人の女の浴衣、あってしかるべきだと思うのだ。

10代の浴衣はストリートファッションだから、薔薇の花の柄でも、大きなブーケが付いていても、帯がびっくりするような蝶々結びになっていても、可愛ければOK! どんどんコスプレしてちょうだい。でもお姉さんの浴衣は、言っとくけど、半端じゃないわよ!……と行きたいものだ。

染め上がった山龍初の浴衣地。小千谷縮に尾形光琳の「秋草紋様」が手描きで描かれている贅沢なもの。仕立て上がりの着姿は、来月ご紹介します。

染め上がった山龍初の浴衣地。小千谷縮に尾形光琳の「秋草紋様」が手描きで描かれている贅沢なもの。仕立て上がりの着姿は、来月ご紹介します。

「僕が作るからには、着ただけで質の違いがわかるような浴衣にしたいな」

そう豪語して、山龍が今回選んだのは、小千谷縮(おぢやちぢみ)、麻100%の素材だった。エアコンなんてものがなかった昔は、夏は汗の吸収のいい綿が浴衣の基本だった。

代表的な綿コーマ、綿絽、綿紅梅、有松絞りなど、全て綿100%。しかし、エアコンが普及している現代では、室内に入ったときに、乾燥するのが綿の3倍早い麻のほうが、着心地がいいのだという。クレープのようなサラサラの肌触りは、いかにも気持ちよさそうだし、綿のようにヨレヨレにならないシャキッと感が、かなり粋である。

柄は、尾形光琳の小袖の図案「秋草」を復元。ブルーの濃淡と墨を基調にした、シックでいて華やかな、正に大人の浴衣ならではの柄である。

「涼しげやけど硬質な光琳のタッチは、浴衣にちょうどいい。色彩バランスが完璧やな」

さてさて、これを仕立てたら、どんな浴衣が出来上がるのか。はたまた、これを着て表参道を歩いたら、女っぷりがどのくらいアップして見えるのか……そのへんは、来月のお楽しみということで……。

「僕の浴衣があちこちで取り上げられて、浴衣のメーカーさんが、どんどんコピーしてくれはったら、日本の夏の浴衣姿が、もっとよくなる思うよ」

山龍、自信の発言にて、夏はもうすぐそこなり!

(2007.7.6)