山龍ブログ - 誰にも文句言わせへんで!コラム

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  • 時事
    FRBによる資金供給量の拡大は、リーマンショック後の株価調整局面で何度か実施されました




    米国のマネタリーベースの推移をみると、階段状に拡大していることがわかります
    これは、リーマンショック後のFRBにとっても量的緩和は「アブノーマルな」緩和政策
    であり、危機時の緊急対応という位置づけであったことを示しています
    すなわち、一旦、危機を乗り越えると、FRBはマネタリーベースを削減しようと試み
    ますが、マネタリーベースの拡大が止まると、再び株価が大きく下げます
    したがって、マネタリーベースをさらに拡大せざるを得なくなる、という行動を繰り
    返してきたのが近年です
    2014年半ばからマネタリーベース残高はほぼ一定で、なかなかそれを減らすことは
    できませんでした
    ようやく2016年に減らしたものの、株価の大幅下落(チャイナショック)もあり
    2017年には再び残高が増えました
    そして、昨年10月からマネタリーベースの削減が再開されていたのです
    今回の削減に際し、2月に株価の調整があったものの、それをマネタリーベースの削減
    なしで乗り切ったことから、FRBは出口政策に対する自信を深め、削減ペースを加速
    させたところ、10月以降の大幅下落となりました
    しかし、このときにもFRBはマネタリーベースの削減ペースを緩めませんでした
    そして、結局、今回の暴落が発生したのです

    こうした経緯を考えると、とりあえずは資産圧縮を止め、2017年のようにマネタリー
    ベースを再び拡大させることが必要で、FRBがそれを行うか否かで米国株式市場、及び
    経済の行方は大きく変わってきます
    こういう話をすると、決まって出てくる反論は「量的緩和は効果がない」という緊縮亡者
    の意見ですが、これは現在のFRB内でも共有されている可能性が高い気がしますが
    先日の年頭のパウエル議長の会見では、トランプ大統領からの圧力もあり、暫し緊縮は
    見合わせるという発言がありました

    最近の金融政策論では、「中立金利」という考え方が主流となっています
    政策金利(現在はFF金利)からインフレ率を控除した「実質FF金利」の水準が
    「中立金利」の水準を下回っている場合には、金融政策は「緩和スタンス」をとっている
    という解釈になります
    昨年第三四半期の中立金利が約0.8%、実質FF金利は約0.5%(名目FF金利が2.4%、
    インフレ率が1.9%)ですから、FRBにとってみれば、現在の金融政策は依然として
    緩和的であり、利上げによって株価が急落し、これが実体経済に悪影響を及ぼすという
    ことはありえないという結論を導き出したと思われます
    また、現在の景気拡大によって中立金利の水準が1%程度にまで上昇すれば、来年はあと
    2回の利上げ(FF金利が3%)を行って初めて中立金利と実質FF金利が同水準になる
    すなわち、FRBの金融政策は中立になるという計算をしたようです
    しかし、いわゆるリフレーション政策からの「出口」の局面では、この中立金利の議論は
    成立しない可能性が高いとグルーグマン教授やサマーズ氏も発言しているように
    中立金利の考え方は、あくまでも経済が正常化を実現してからの議論ではないかと思われ
    現在のアメリカの主流経済学者が各々コラムや論文で発表しています
    例えば、中立金利の標準的なモデルである「Laubach-Williams推定」で、戦前の米国の
    中立金利を算出すると、出口政策に失敗した1937年頃の状況は今回同様、実質政策金利が
    中立金利よりも低く




    両者のギャップをとってみると、1937年は、このギャップのマイナス幅が拡大した
    にもかかわらず、実質GDP成長率は急激に低下し、デフレ期(1930-33年頃)に次ぐ
    大幅なマイナス成長となりました




    エガートソンらの論文によると、政策スタンスがデフレ志向に変わり、将来の景気悪化
    もしくは再デフレを予想する人の割合が急激に増えたためだとしています
    この人々の「期待」の転換は、将来にも禍根を残します
    例えば、1938年以降、FRBは再び量的緩和を採用し、その規模は、1930年前半のデフレ期
    を上回りましたが、その効果はあまり大きくありませんでした
    例えば、当時の国債のイールドカーブから、「傾き」要因を抽出し、それとマネタリー
    ベースの伸び率の関係をみると、出口政策が実施される直前までは高い相関関係があり
    マネタリーベースの拡大が将来の景気拡大から長期金利の上昇を予想するような動きで
    あったのに対し、1937年の出口政策の失敗後は、マネタリーベースの拡大ほど、傾き要因
    は上昇しておらず、長期金利の上昇はそれほど大きくなかったことを示唆しています




    長短金利差の拡大は金融機能や信用創造機能の活性化を意味しますが、1938年以降の
    回復局面では、それがあまり大きくなかったということになります
    当時、米国が孤立主義を転換し第二次世界大戦に参戦するのは1940年終盤からですが
    参戦が遅れたのは国内の経済事情も多少は影響したのでしょう
    さらにいえば、1937年に「傾き」要因が急速にゼロ近傍まで低下してっますが、これを
    みると、今回もFRBの金融政策の不備によって「逆イールド」リスクが出てきたことを
    示唆するものだと言えます

    以上、4回に分けて書きましたが、FRBによるマネタリーベースの再拡大は早ければ
    早いほど経済には良い影響が出ます
    また、1937年大不況の教訓からは、利上げの一時的な停止や利下げをしても、株式市場は
    あまり効果がないという結論になります
    逆に、あくまでも金融政策の正常化を追求する路線を堅持するのであれば、米国経済の
    雲行きはかなり怪しくなり、穏健派のマティス国防長官退任後のトランプ政権の外交安全
    保障政策は、経済政策の失地を挽回すべく大きく転換するリスクを考えておくべきです
    現在、米中で話し合われていますが、成功裡に進んでいると思われる対中国封じ込め政策も
    国内経済が痛んでしまえばこれ以上の展開は厳しくなり、かといって、アメリカは抜いた刀
    を鞘に戻す気はないでしょうから、一旦、『軽度の合意』がなされ、その間に大きなうねり
    を生み出す『準備』が為されるでしょう
    その『準備』が、新たな経済制裁か、南沙諸島への攻撃か、台湾海峡への派兵か
    いずれにしても、アメリカ経済の混迷は米中戦争への最短の道になります


    | author : 山龍 | 12:07 AM |