山龍ブログ - 誰にも文句言わせへんで!コラム

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  • 時事
    この方のお母さんには随分お世話になりましたが
    生前も、ずいぶん息子の出来の悪さを嘆いてらっしゃいました…

    船田さんのレポートの下が、「真っ当な研究のレポート」です(笑)





    船田元
    サマータイム制度の導入について
     今、国会周辺で検討され始めたサマータイム制度、正確にはデイライト・セービング・タイムだが、夏の一定期間、時計を1時間から2時間早める制度で、欧米では一般的に実施されている。太陽の光を効率的に利用して活動し、明るいうちに帰宅して、長く余暇を楽しむことが出来る。また電力消費を削減する効果があるとされている。
     日本でも戦後すぐGHQの指令により、3年間実施していた。しかしサンフランシスコ講和条約締結とともに廃止された。その理由は国民に不評だったからだ。夏時間に切り替わった後は、多くの国民が睡眠不足になり、健康を害しかねないこと。夕方5時を過ぎても明るいため、長時間労働をさせられることなどである。その後も数回検討されたことがあるが、コンピュータ設定変更の手間や、電力消費の削減に繋がらないなどの理由で、見送られてきた。
     この度検討が開始されたきっかけは、2020年夏の東京オリパラでの暑さ対策である。開催が予定されている7月下旬から8月上旬は、一年で最も暑い時期であり、競技する選手や観客の負担を軽減するためであり、やむを得ない措置だろう。ただ2019、20年度に限るとの提案はいただけない。国民全体の生活パターンに影響を与える制度だから、一時しのぎではなく、腰を据えて恒久的な制度として考えるべきではないか。
     その際はこれまで指摘されてきたいくつかのデメリットを、一つひとつ丁寧に解決していかなければならない。長時間労働に対しては、既に動き始めた働き方改革により、かなりの歯止めが期待される。コンピュータなどの時間設定の変更は、律儀で真面目な国民ならば十分乗り切れるはずだ。余暇時間の過ごし方が、エネルギー消費の削減につながるような工夫も必要だ。一方、睡眠不足などによる健康障害問題は、むしろ個人の心構えにより、多くは解消されるはずだ。
     明らかに地球温暖化を原因とする異常気象が、世界を震撼させている。サマータイム制度が少しでも温暖化防止につながるのであれば、我々は躊躇することなく、この新制度に挑戦すべきではないのだろうか。





    ズザンナ・イルソーヴァ, トマーシュ・ハヴラニク, ドミニク・ヘルマン 「サマータイムはエネルギー節約にならない」(2017年12月2日)
    2018年8月13日 by phzzico leave a comment
    Zuzana Irsova, Tomas Havranek, Dominik Herman, “Daylight saving saves no energy“, (VOX, 02 December 2017)
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    サマータイムのもともとの根拠はエネルギーの節約だった。しかし本稿が明らかにするところ、この論点に関する現代の実証文献では、平均的にみて何ら節約効果が確認されていない。節約量は緯度と関係している – すなわち、緯度が比較的高い地域では節約効果が僅かに大きくなるが、亜熱帯地域においてはサマータイムのためにかえって消費エネルギーが増加する。スカンディナヴィア地域においてさえ、節約効果は年間エネルギー消費の0.3%程度にとどまる。サマータイムの続用を正当化するつもりならば、政策立案者はこの政策のもつ何か別の効果に着目する必要がある。
    ヨーロッパ人やアメリカ人の殆どが、サマータイム (DST: daylight saving time) はエネルギー消費を削減するものだと学校で教えられる。そしてこの社会通念は、セイラーとサンスティーンをはじめとする堂々たる面々によっても繰り返し語られてきた。彼らの著書 Nudge (Thaler and Sunstein 2008) でもDSTが称賛されている。周知の如く、サマータイムはもともと第一次世界大戦中に幾つかの国でエネルギー使用を減らすために採用されたものだったが、現代の経済におけるDST関連のエネルギー節約量を扱ったアカデミックな研究は驚くほど層が薄い。ジャーナルに掲載された記事や、未公開の研究論文、またエネルギー企業のレポート、政府白書、博士論文などを我々が渉猟したところ、Ebersole (1974) のパイオニア的レポート以降の研究で活用できそうなものが44点見つかった。残念ながら、関連文献にぱっと目を通す程度ではどうにもならないのだ。推定値はばらばらであり、一定のコンセンサス値に収束するどころではない。
    図1 報告推定値は時代を下るにつれ発散してゆく




    注: サマータイムがエネルギー使用に及ぼす影響を測定した諸研究。エネルギー節約を示唆するのは負の推定値である。
    関連文献のなかには既にふたつのサーベイ調査 -Reincke and van den Broek (1999) とAries and Newsham (2008) – があるが、ここでも研究者が異なると得られる結果も相当に異なってくる様子が示されている。DSTに由来するエネルギー節約を支持する実証データを見つけることは可能だ。ただそれとちょうど同じように、DSTと結び付いたエネルギー需要の増加を示す実証データも見つかるのである。例えば、最も多く引用されている研究としてKotchen and Grant (2011) があるが、そこでの結論は、政策目標とは裏腹に、DSTはエネルギー消費を増加させるというものだ (同研究がこれほど多く引用されているのもこの結果ゆえかもしれない。もっとも、これが掲載されたのが The Review of Economics and Statistics という権威あるジャーナルだったのもまた事実である)。ところがAries and Newsham (2008: 1864) での結論は、「DSTがエネルギー使用に及ぼす影響の在り方に関し、既存の知識は限られている、あるいは不完全である、さもなくば矛盾している」 というものだ。まさにその通りで、数多くの個別研究ではその内部においてさえ、矛盾する結果を見つけることが出来る。図2はそうした状況を如実に示す。
    図2 研究間でも研究内部でも推定値には大きな幅がある




    注: サマータイムがエネルギー使用に及ぼす影響を測定した諸研究。エネルギー節約を示唆するのは負の推定値である。
    メタ分析の試み
    近日刊行される我々の論文では、関連文献の定量的統合を実施した: メタ分析の試みである (Irsova et al. 2018)1。こうした研究結果の違いを、データや方法の違い、さらに場合によっては広い意味での研究クオリティの違いにまで辿ってみようというのが我々のねらいである。DSTがエネルギー消費に及ぼす影響を扱った前述の研究44点から、活用可能な推定値を162個収集した。そのうえで、まず初めに公表バイアス (publication bias) の検証を行った。これは実証経済学における研究成果を二倍に誇張する形で現れるのが典型である (Ioannidis et al. 2017)。ところが公表バイアスは全く確認されなかった。これはそれだけで注目に値する発見だ。たしかに我々のデータセットには未公刊論文が多数含まれているが、しかし経済学では公表バイアスはワーキングペーパーにおいてさえ確認されるのが典型である。直感に反し、統計的に有意でないような結果は、多くの著者が常習的に蔑ろにしているためだ。
    公表バイアスが無いので、我々は本分析の主要部分に進んでよいことになる – すなわち、報告推定値がこうまでばらつくのは何故なのか、これを調べてゆく。この目的のため、DST効果の推定値を、これら推定値が確認された文脈と関連したファクターに回帰させた。例えば、該当推定値と対応する地域における、最長日照時間の数値などを取り入れている。他のファクターとしては、エネルギー使用に関するデータの周期 (時間単位または日単位)、推定方法 (シミュレーション・差分の差分・単純回帰)、エネルギー使用の定義 (商用・居住用・照明のみ)、研究クオリティに関わっているかもしれない事情 (ジャーナル掲載・発行元のインパクトファクター・引用数) を考慮し、調整を行った。
    図3 報告推定値のサイズと相関のあるファクター




    注: 諸般のファクターを、その重要性に従って上から下に並べている。列はこれらファクターの組み合わせ (モデル) を示し、モデルの有用性に従って左から右に並べられている。相対的な有用性は列の幅で表している。青い色は、該当ファクターが、発見されるDST節約量が少なくなる方向に寄与することを意味する。
    結果、権威ある版元から出ている研究ほどサマータイムによるエネルギー節約を低く報告していること、また夏季日照時間の長い (つまり相対的に緯度が高い) 国ほどエネルギー節約量が大きくなることが明らかになった。データの周期と推定方法論も重要である。
    つづいて、本サンプル中の各国について、関連文献におけるベストプラクティス条件のもとでは、どのようなDST効果の推定値が得られるか計算した。これは基本的には、メタ分析の結果を用いて推定値を再計算する際に、あたかもそれら全てが差分の差分アプローチと時間単位データを使った研究により導き出されたのち、最大のインパクトファクターを誇る発行元から公表されたかのように扱ったものである。表1にベストプラクティス推定値を示す。
    表 1 サマータイムがエネルギー消費に及ぼす効果 (国毎)




    負の推定値はその国ではDSTがエネルギー消費を削減したことを意味する。緯度が比較的低い一部の国では、ヨーロッパの国であってもなお、DSTはエネルギー消費を増加させるようである。とはいえ推定値は全て統計的に有意でなく、しかも非常に小さい。データセット全体の平均値は殆どゼロそのものである。ノルウェイはDSTの恩恵が最も大きな国だが、同国においてさえその効果はDST適用時の日中に0.5%あるだけで、したがって年間消費量の0.3%程度にしかならない。
    結語
    サマータイムは世界各地の15億もの人々にたいし一年に二回影響を与える – タイムシフトのために生じた交通事故を実証した研究が示すように (Smith 2016)、ときにそれは致命的なものとなる。サマータイムには敢えて語るべきエネルギー節約効果が無いという発見を前にしては、依然として広く援用されているとはいうものの、この政策のもともとの根拠はもはや崩れ去らざるをえない。実際のところ、恐らくDSTはあまり良いナッジではない; 何ダースもの国がここ数十年のうちに同政策に見切りを付けている。あるいは、夕方日照時間の増加 (longer evening daylight hours) がもたらす好都合な効果は、睡眠不足やさらには交通事故による (さらに可能性としては心臓発作や抑鬱などの事例の増加による) 人命損失の不都合に優越するのかもしれない。あるいは、通年のDSTならば、タイムシフトに関連した数多くの問題を除去しつつ、その便益の大半を維持できるのかもしれない。実際どうなのかは、端的にいって、分からない。サマータイムに関して様々に異なる便益と費用のすべてを体系的に比較した研究が、依然として待望される所以である。



    | author : 山龍 | 12:00 AM |