アーティザン「匠」 - 山龍作品に見る職人技の妙

140の楽器が奏でる協奏曲

本綴織

布に柄を描き出すその原点は、刺繍でした。しかし、刺繍はとても手間暇がかかるため、それを簡略に、短時間で出来上がるようにと開発された技術が「織物」です。世界には様々な織物がありますが、そのほとんどが刺繍の模倣なのです。

しかし、ここで紹介する『本綴織』と『ペルシャ絨毯』は、最初から織りでの表現を目指した技法です。どちらも機械が使えず、職人が絵を描くように糸を操って模様を織り描いていくという、手間と高度な技術を必要とする織物です。

普通の平織りの場合、一方向に織り進んでいくため、柄を織り込む場合は、柄に使う緯糸(よこいと)の色糸も織り幅いっぱいに渡ります。例えば地に5色で柄を織り描くには、一越(ひとこし・緯糸一段のこと)に6本の糸が横幅いっぱいに渡るわけです。しかし綴織は、舟形の杼(ひ)という、ミシンのボビンと糸通しが一緒になったようなものに巻かれた色糸を使い、地の部分と柄の部分を別に織っていきます。つまり、模様は模様の部分で独立して色糸が左右に往復するわけです。そのため、色の切り替えの部分に、糸の折り返しによる「把釣孔(はつりこう)」とよばれる隙間ができるのが特徴です。柄に使う糸が渡らないため、表も裏も同じに仕上がり、余計な糸がない分、軽い風合いに上がります。

織り手は、経糸(たていと)の下に実物大の下絵を置き、経糸越しにそれを見ながら、絵の具で絵を描くように織り込んでいきます。そのため、織り手の感性が必要とされ、同じ下絵でも、織り手によりできあがりが変わってきます。芸術性が高く、織物の中でもいちばん手間がかかり、1日に1センチほどしか織り進めません。普通でも3か月、総模様の帯などは、織り上げるのに1年以上かかるものもあります。

本真綿紬本綴帯『広沢の池』(ほんまわたつむぎほんつづれおび『ひろさわのいけ』)
本真綿紬本綴帯『広沢の池』(ほんまわたつむぎほんつづれおび『ひろさわのいけ』)

本真綿は織る途中で糸が切れやすいため綴織は難しく、これ1点のみという貴重な作品。京都・嵯峨野にある広沢の池で毎年12月に行われる『鯉揚げ』(池の水を抜いて、鯉を収穫し、掃除をする)の、水が抜けて渦ができる様子を織り描いたもの。

※写真をクリックすると、拡大画像がご覧いただけます。


ビロード本綴帯『クパ族のビロード』
ビロード本綴帯『クパ族のビロード』

アフリカのクパ族に伝わる織物の柄を、ビロードの本綴織で表現したものです。

※写真をクリックすると、拡大画像がご覧いただけます。


< もどる